尿路感染症

尿路とは

尿路とは尿の通り道のことを言います。図のように腎実質で作成された尿は、まず腎盂という袋状の場所にこし出され、尿管を通って膀胱まで下行します。一般的に腎臓と呼ばれるのは腎実質と腎盂を合わせて腎臓といいます。腎実質は尿を作る工場で尿の通り道ではないため、厳密にいうと尿路には含まれず、尿路とは腎盂、尿管、膀胱を指します。

膀胱より下部の尿路は男女で違い、女性は尿道のみ、男性は前立腺と尿道があります。

つまり、尿路とは女性では、腎盂、尿管、膀胱、尿道、男性では、腎盂、尿管、膀胱、前立腺、尿道を指します。

尿路感染症とは

尿路感染症とは、尿路に細菌が侵入し感染を起こすことを言います。尿路への細菌の侵入場所は尿道です。尿道から侵入した細菌が尿の流れと逆の流れでどんどん上行していき、感染症を引き起こします。

女性の場合は尿道が短いため、細菌がすぐに上行できるため、膀胱まで容易にたどりつき膀胱炎になります。

しかし、男性は尿道が長く、膀胱まで細菌がたどり着くのは至難の業です。よって、排尿が正常に出せている男性が膀胱炎になることはありません。膀胱までたどり着く前に前立腺があり、そちらで感染を引き起こし急性前立腺炎を起こさせたり、精液の流れにさかのぼって精巣上体という精巣の上に帽子のように付着している場所までたどり着き精巣上体炎を引き起こします。前立腺肥大症などで尿を外にしっかりだせず常に膀胱に尿が残っている場合は、男性でも膀胱炎になることがあります。

膀胱までたどり着いた細菌を放っておくと、尿管、腎盂まで上行していき、最終的に腎実質へ細菌が侵入し、腎盂腎炎を引き起こします。膀胱まで細菌がたどり着かないと腎盂まで細菌が侵入することはないので、腎盂腎炎も膀胱まで細菌がたどり着きやすい女性に多い感染症となります。

尿路感染症って熱が出る？

上記のように、尿路感染症とは、女性に多い膀胱炎、腎盂腎炎、男性のみの前立腺炎、精巣上体炎があります。頻度的には女性の膀胱炎が最も多いです。

膀胱は管腔臓器といわれ、いわゆる袋状の臓器です。管腔臓器の炎症は一般的に発熱を伴わないことが多いです。胃も管腔臓器ですが、胃炎で熱がでることはないですよね。膀胱炎もそれと同じで排尿時の強い症状はありますが、発熱は伴いません。

あとの腎盂腎炎、急性前立腺炎、精巣上体炎は管腔臓器ではなく、腎実質、前立腺、精巣上体という実質臓器の炎症を伴いますので、発熱を伴います。尿路感染症の発熱は、一般的にインフルエンザ並みに高熱がでることが多いです。39度や40度でることもまれではありません。インフルエンザなど他の高熱を伴う疾患と違いは、尿路感染では熱以外に症状が必ずあります。腎盂腎炎では腰痛、急性前立腺炎では頻尿、排尿時痛、精巣上体炎では陰嚢の腫大、疼痛がありますので、ほかの疾患との鑑別は比較的容易です。

尿路感染症は治りやすい？

尿路感染症の治療は、どの疾患でも抗生剤の投与です。抗生剤を経口や点滴で投与すると、最終的に体の外へ排出されますが、排出される経路としては、尿から排出される抗生剤がほとんどです。ですから尿中には抗生剤がたくさん排出されますので、尿中の抗生剤の濃度は、かなり高い濃度になります。ですから、肺炎など他の感染症と比べたら、たくさんの抗生剤で細菌を攻撃できるため、治療効果が早期に現れやすいといわれています。発症を急激で高熱が出ますが、抗生剤が効けば2-3日で解熱することが多く、肺炎などと比べるとその意味では治りやすい感染症といえます。

尿路は薬剤耐性菌の宝庫

尿路は、抗生剤の濃度が高いため、尿路感染は治りやすいと説明しました。しかし、それには一長一短があり、尿中の抗生剤の濃度が高いために細菌は抗生剤に触れる機会が多くなり、そうすると細菌は自分たちが生きていくために、変異を起こしやすくなります。抗生剤が効かないように細菌は上手に変異していき、抗生剤が効かない菌と進化していきます。このような抗生剤が効かなくなった菌を薬剤耐性菌といいます。尿路では、呼吸器・気道内や腸管内よりもこの薬剤耐性菌の出現頻度が圧倒的に高くなっており、問題となっています。尿路感染は抗生剤が効けば治りやすいですが、事前にどの抗生剤が効くかの予測は困難な状況になってきており、尿路感染の治療を複雑化させてしまっています。ですから、尿路感染症の治療では必ず尿の培養検査を出して、使用している抗生剤が効く菌なのかどうかをチェックし、もし薬剤耐性菌で使用している抗生剤が効かない場合は別の抗生剤に変更するなどの処置が必要になります。

各種尿路感染症の詳しい説明は、各疾患のページをご参照ください。