急増する梅毒~梅毒とは?
当院の性感染症全般の治療の流れや費用についてはこちら↓をご参照ください。
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神戸市では2022年の梅毒感染報告者数が過去最高になりました。
梅毒はつい最近までほとんど遭遇しなかった感染症です。ですから梅毒の診断・治療の経験が少ない医療機関が多いのが現状です。梅毒が急増している現在、梅毒の診断・治療は専門的知識を有した医療機関での治療をお勧めします。
今、日本では梅毒が流行しています。20歳台の女性、20-40歳台の男性の感染者が特に目立ちます。梅毒というと、過去の病気のイメージを持たれるかもしれませんが、もはや若い世代に流行している、身近な性感染症となっています。この非常事態に性感染症の診療に従事している者が所属する5つの学会(日本性感染症学会・日本感染症学会・日本化学療法学会・日本環境感染学会・日本臨床微生物学会)が一致協力して「ストップ!梅毒 プロジェクト」を立ち上げ、国民の皆さまへの啓発を行ってます。当クリニックでも梅毒の蔓延防止につなげるため、以下に梅毒とはどんな病気かを詳しく解説させていただきます。
コロナ禍でも減少しなった梅毒~全国的に増加傾向です!!
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、人々の感染対策が強化され、コロナ以外のインフルエンザなどの既存の感染症は減少傾向となっています。しかし、梅毒に関してはコロナ禍でもむしろ増加に転じており、2021年の梅毒発生数は前年より全国で約30%増加しています。
兵庫県はクラミジア、淋菌、梅毒などの主要性感染症発生数では毎年全国トップ10に入る性感染症の多い地域です。当院での発生数も2022年に入ってもコロナ禍とは関連なく高い発生数となっています。(以下、表参照。)全国的に増加している梅毒に関しては、当院でも月10例前後の発生があり、依然流行が継続しているのが現状です。(梅毒は、10年前では性感染症の患者さんが多い病院でも年間で10例発生するかしないかの感染症でした。)
表:当院の性感染症新規発生数の月別推移 2022年
2022年 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 |
男子尿道炎(淋菌、クラミジア、マイコプラズマ) |
72 |
75 | 96 | 113 | 101 | 129 | 135 | 139 |
梅毒 | 5 | 13 | 12 | 7 | 9 | 9 | 8 | 12 |
性器ヘルペス | 11 | 11 | 11 | 16 | 18 | 20 | 17 | 23 |
梅毒は専門的知識を持った医療機関での検査・治療をお勧めします。
梅毒とはどんな病気?~もはや過去の病気ではない!!
梅毒は性行為(性交渉、セックス、オーラルセックス、アナルセックス、キス)によってうつる、性感染症の一種です。梅毒の原因となるのは、梅毒トレポネーマという細菌です。この菌が性行為によって、ヒトからヒトに伝染して病気がうつるのです。日本では第 2 次世界大戦後、年間 17 万人余りの患者が発生したと報告されていますが、この頃から、特効薬である抗生物質ペニシリンが普及し、10 年ぐらいの間に激減し、1990 年代には年間 500 人程度の発生にまで抑え込まれました。このことで梅毒は「過去の病気」というイメージが国民についています。
しかし、2000 年から 2012 年までは年間 500~800 人台を推移していたのが、2013 年に 1200 人を突破し、以降、年々急増し、2017 年には 5820 人に達し44年ぶりに5000人を超えました。
5 年間で 6 倍以上に増えたわけです。梅毒発生は医師による届出制で把握されていますが、届出基準に達していなくても実際は梅毒である症例も含めると、本当はもっと多くの梅毒患者が発生していると考えられます。梅毒にかかる年代は、男性では 20~40 代、女性では 20~24 歳に多く、性感染症としての特徴が表れています。若い女性の感染が多いため、その結果として、母体から胎児に病気がうつる「先天梅毒」も増えています。
梅毒はどうやって感染する?
梅毒は性行為により感染します。性器と性器の接触(セックス・膣性交)、性器と肛門の接触(アナルセックス・肛門性交)、性器と咽頭の接触(オーラルセックス・口腔性交)で感染します。また、口唇に感染がある場合はキス等で感染することもあり、乳頭に病変が発生することもあります。
飛沫感染や空気感染はなく、日常生活で感染することはありません。
また、母子感染(お母さんからお腹の赤ちゃんへの感染)は高確率で発生しますので、妊娠時には梅毒検査は必須です。
*心当たりがないのに梅毒感染しているケースも増えています。
現在、感染経路の多くは、性風俗の利用や性風俗従事者、肛門性交に伴う感染です。しかし、最近ではSNSやアプリの普及で性風俗以外でのパートナー以外との性行為の機会が増加しており、特に若年者において一般的な性行為で感染するケースが増加しています。心当たりがなくても以下に示すような梅毒を疑う症状が現れれば専門医療機関への受診をお勧めします。
梅毒はどうやってわかる?
梅毒の診断は採血検査により行います。梅毒トレポネーマ抗体(TP)および梅毒血清反応STS(RPR)の2種類の検査を行います。しかし、TP、RPRとも陽性となる症例は全体の2/3程度であり、残りの1/3はどちらかのみ陽性もしくはどちらも陰性になります。特に感染初期ではTP、RPRとも陰性になることは珍しくありません。ですから、梅毒の診断において視診は非常に重要です。特に男性性器に病変がある場合は専門医が視診するれば典型的な症状であれば梅毒と診断できます。梅毒を疑う症状がある場合は、インターネット等で販売している検査キット等で自分で判断するのは危険ですので、まずは梅毒治療経験が豊富な専門医療機関へ受診しましょう。
*自分で検査して判断するのは危険です。
ネットやSNSで梅毒の急増が話題になっており、これに乗じて検査のみ行う自費検査クリニック業者やインターネットによる検査キットの販売業者が急増しています。無症状の場合はこれらの業者を利用するのは許容できますが、上に述べたように感染初期では検査で陰性になることも珍しくありませんので、症状がある場合は専門医療機関を必ず受診してください。
*RPRは擬陽性があります。
検診や人間ドックでRPRのみ陽性となるケースがあります。RPRは梅毒以外でも陽性となることがあり、無症状の場合は擬陽性の可能性もありますので専門医療機関での精密検査をお勧めします。
*TPとRPRどちらが大事?
教科書的には感染初期ではRPRが先に上昇するといわれていましたが、実はそんなことはありません。感染初期ではどちらも陰性になることやTPが先に上昇することも多いです。RPRは治療の経過をみることに適していますが、擬陽性もあり診断にはどちらかといえばTPの方を重視します。しかし、以前に梅毒に感染した既往がある場合は、TPは陽性になりますので、視診も含めて総合的に診断する必要があります。
梅毒の初期症状~特に女性では初期の症状に気づかないこともある
性行為による感染から 3~4 週間で、性器に軟骨に似た硬さ(耳たぶの硬いところと同じくらい)のしこりができ(初期硬結)、中心部から崩れてくる(硬性下疳)のが典型的な初期症状です。性器以外にも、咽頭や肛門、唇や乳首にこのような病変が生じることもあります。男性では多くは陰茎、亀頭に病変が生じるため気付くことが多いです。しかし、これらの病変は痛みを伴うことが少ないため、女性性器や咽頭に病変が生じた場合には気づかないことが多いです。また、治療しなくても1ヶ月程度で自然に良くなってしまうため、見逃されてしまう可能性があります。本人に自覚がない場合は、この期間に梅毒は他の人へと広がっていくのです。(梅毒第一期といいます)
初期症状の次は約3カ月後に全身に発疹
初期の局所症状が消えてしばらく経過してから(約 3 か月程度)、全身の皮膚にバラ疹と呼ばれるピンク~赤色の発疹が出て、手のひら・足の裏にも真ん中がかさかさと乾いた直径数ミリの暗赤色の発疹が出てきたりします。口の中の粘膜に白っぽい斑紋が見られることもあります。これらは梅毒第二期と呼ばれます。これらの変化も放っておくと、無くなってしまうことが多いのですが、治ったわけではありません。無治療で放っておくと、数年〜数十年という長い期間の中で悪化して、いろいろな重い症状をもたらす可能性があります。脳障害による認知症のような症状、脊髄病変による手足の麻痺、心臓や血管の病気、眼の梅毒による失明など、非常に重篤な状態となることがあるのです。
梅毒の治療~梅毒は治る病気です!!! 抗生物質を飲むだけで治ります!
無症状でも、血液検査で梅毒にかかっていることが分かれば治療は必要です。幸いなことに梅毒は今のところ薬剤耐性化(薬が効かなくなる)はしていません。ペニシリンという昔からある抗生物質の内服(1日3回)で治療ができます。アレルギーなどでペニシリンが使えない場合にも代わりに効く薬があります。
治療の流れ
①TP, RPR定量検査(採血検査)
まず、梅毒と診断すれば、必ず治療前に再度採血を行い、TTPとRPRの実際の数値を測定する定量検査を行うことが必須です。(診断に用いる採血検査はTP、RPRの定性検査で陽性か陰性の判定しかできず、実際の数値は測定できません)症状があっても、その症状は治療しなくても自然に治る性質があるため、症状の経過で治療効果の判定はできません。無症状の場合も含め治療効果判定は、RPRの数値を用いて行います。そのため、治療前に測定が必要なのです。
②経口ぺニシリン薬の内服
採血後、経口ぺニシリン薬(アモキシシリン 1500mg /day 1回2カプセル1日3回)を4週間投与します。ペニシリン内服後、一時的な発熱を伴う梅毒特有の反応(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマ―反応)が起こることがあり、投与後2週間で副作用のチェックに受診してもらいます。
③治療効果判定採血
4週間投与後、再度採血を行いRPRの数値を測定し、治療前の数値の半分以下になっていれば治療を終了します。9割以上の患者さんで4週間投与にて治療を終了できます。数値の低下が悪ければ再度4週間投与を行い計8週間の投与を行います。
④治療後フォロー
治療後は一年間のTP RPR定量検査の採血フォローが必要です。専門医による治療および治療後フォローをお勧めいたします。
*梅毒治療用持続性ペニシリン注射製剤「ステルイズ」について
梅毒に対しての注射製剤が発売されました。注射製剤は梅毒早期であれば1回の筋肉注射で治療可能ですが、2期梅毒では週1回3回もの筋肉注射が必要です。本剤は粘性が高いため、かなり太い注射針(ワクチン接種の3倍の太さ)を使う必要があり、通常の筋肉注射と比較して強い痛みを感じやすく、神経損傷などの筋肉注射の合併症のリスクが通常の筋肉注射よりも高いです。
治療費は内服治療よりも高価であり、1回注射で内服治療の約5倍、3回注射では約15倍もの費用がかかります。また、梅毒に対するペニシリン注射は以前にも日本でも行われておりましたが、ペニシリンショック死の報告があり中止された経緯があります。経口薬よりもアナフィラキシーショックの発生頻度が高く、安全性の面も危惧されます。
以上より、現時点では治療費用や安全性を考えますと経口薬の方が優れてると判断し当院では施行していません。
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文責 みうら泌尿器科クリニック院長
三浦徹也(日本泌尿器科学会専門医、性感染症学会認定医)