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淋菌感染症(淋病)、クラミジア感染症、マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症について

性感染症全般の治療の流れや費用についてはこちら↓をご参照ください。

→STD(性病)のお悩みページ~性感染症学会認定医が解説します

一般的に男性で症状が強く、尿道炎(ペニス・尿道の痛み、尿道からの膿排出)として発症することが多いですが、女性は感染してもほとんどが無症状です。最近は無症状の咽頭感染(のどの感染)が増えており、オーラルセックスによる感染伝播が問題となっています。また、薬剤耐性(薬が効きにくい)淋菌、クラミジアの出現やマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症の増加も問題となっています。

目次

*自分で検査して判断するのは危険です。

最近、ネットやSNSの普及に伴い、梅毒の急増が社会問題となったり性感染症に関しての話題がトレンド化することも増えました。これに乗じて自費診療のみを扱う性病クリニックや性病検査のみ行う検査キットのネット販売業者が急増しています。無症状の場合はこれらの業者を利用するのも許容できますが、症状がある場合は、このような業者を利用し検査のみ行って自己判断するのはお勧めしません。クラミジア(特に男性)や梅毒初期では感染していても検査で陰性になることも珍しくありません。特に男性では尿道炎(尿道に感染する性感染症)の原因菌は淋菌、クラミジアだけではありません。マイコプラズマ感染の増加や女性の咽頭に常在しているインフルエンザ菌による尿道炎など検査できない性感染症もたくさんあります。性感染症を疑う症状がある場合は、必ず専門医療機関を受診し抗菌薬等による適切な治療を行ってください。

また、クラミジアの検査はPCR検査が最も感度が高い検査ですが、早く検査結果を知りたいという患者さんの気持ちに乗じて、検査後すぐに結果がでるような検査キットによるクラミジア検査を行っているクリニックもあります。このようなクラミジア即日検査はさらに検査感度が落ちますので注意してください。

症状がある場合やパートナーが感染した場合は、保険適用で検査・治療ができますので、必ず保険診療が可能な専門医療機関を受診し治療を行ってください。性感染症において検査はあくまで補助的なものであり、検査よりも適切な抗菌薬による治療が重要です!!

表:当院の性感染症新規発生数の月別推移 2022年

2022年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
男子尿道炎(淋菌、クラミジア、マイコプラズマ)

72

75 96 113 101 129 135 139
梅毒 5 13 12 7 9 9 8 12
性器ヘルペス 11 11 11 16 18 20 17 23

兵庫県はクラミジア、淋菌、梅毒などの主要性感染症発生数では毎年全国トップ10に入る性感染症の多い地域です。男子尿道炎(淋菌、クラミジア、マイコプラズマ)は当院での発生数も2022年に入ってもコロナ禍とは関連なく高い発生数となっています。

大事なパートナーを守るためにも少しでも性感染症の心配がありましたら、専門的知識を持った医療機関での検査・治療をお勧めします。

 

1.淋菌感染症

淋菌感染症は、クラミジアに次いで感染者数の多く、昔から淋病という名称で知られている古くからある代表的な性感染症(STD)です。

1回のコンドームなしの性行為による感染率が30%程度と非常に高いのが特徴です。

感染してから症状が出るまでの期間 : 2日~7日

無症状の場合:検査できるまでは感染から1週間後

症状

男性

下記の症状が出ることがほとんどです。

  • 尿道から多量の黄白色の膿がでる
  • 排尿時にペニスに激しい痛みがある

放置すると精巣上体炎という感染症を起こすことがあり、発熱、陰囊が腫大し激しい痛みを伴う感染症で重篤な場合は入院が必要になります。

女性

ほとんどが無症状

  • おりものの量が増えたり、緑黄の濃いおりものがでる
  • 外陰部の軽いかゆみ、腫れ
  • 不正出血がある
  • 膀胱炎症状(頻尿・排尿痛)

放置すると卵管炎・腹膜炎・子宮内膜炎・子宮外妊娠・不妊症の原因になることがあります。

咽頭感染

ほとんどが無症状

性器淋菌感染症の10-30%に咽頭からも淋菌が検出されます。

検査・診断

最も感度が高いPCR法による検査を行います

男性;尿や尿道分泌物を検査

女性;子宮頚管擦過検体を検査

咽頭;咽頭擦過検体やうがい液を検査

約20-30%にクラミジアが重複感染しているため、クラミジアとの同時検査を行います。

治療

淋菌の薬剤耐性化(抗菌薬が効きにくくなる)は進んでおり、以前頻繁に使用されていたアジスロマイシン2g(ジスロマック?ドライシロップ)は効かなくなり、使用できなくなりました。現在、内服薬で淋菌感染に高い治療効果が期待できる薬剤はありません。内服薬では治療失敗するケースがありますので、必ず点滴治療を行うことを強くお勧めします。

当クリニックでは、唯一咽頭感染にも有効性が実証されている薬剤であるセフトリアキソンの点滴治療を第一選択としています。(20-30分程度の点滴が必要です)

治癒確認

男子尿道炎の場合は、セフトリアキソンは100%に近い有効性を有しますので症状が改善していれば必要ありません。女性や咽頭感染では2-3週後に治癒確認を行います。

 

2.性器クラミジア感染症

感染者数が最も多い性感染症です。男女とも、感染していても無症状または症状が出ても軽度なことが多い(無症状の保菌者が多数いる)ため、感染に気づかずに、どんどん感染を拡大させてしまいます。知らない間にあなた自身が感染源になってしまい、大切なパートナーに感染させてしまうことがあるのです。

20歳代の無症状の若年男性における尿中クラミジア陽性率(無症状のクラミジア保菌者)は4-9%との報告もあります。(Incidence of sexually transmitted infections in asymptomatic healthy young Japanese men Takahashi S. et al J Infect Chemother 2005)

特に女性は感染すると不妊症の原因になったり、腹膜炎など重症化したりすることがありますので、男性の結婚前のブライダルチェックとしてはクラミジアの検査は必須です。

感染してから症状が出るまでの期間 : 1-3週間

無症状の場合:検査できるまでは感染から2週間後

症状

男性

女性よりは症状が出やすいですが、軽度なことが多く気付かないことも多いです。

最も多い症状は

排尿時の軽い痛みや違和感です。

その他、尿道から透明な分泌物がでる、ペニスの不快感、かゆみなどがあります。

女性

ほとんどが無症状

  • おりものの量が少し増えた
  • 外陰部の軽いかゆみ、腫れ
  • 膀胱炎症状(頻尿・排尿痛)

放置すると腹膜炎・不妊症の原因になり、妊婦では産道感染で、赤ちゃんが新生児結膜炎、新生児肺炎になることがあります。

咽頭感染

ほとんどが無症状

女性の場合、膣からクラミジアが検出されれば、10-20%は咽頭からも検出されます。

検査・診断

最も感度が高いPCR法による検査を行います

男性;尿や尿道分泌物を検査

女性;子宮頚管擦過検体を検査

咽頭;咽頭擦過検体やうがい液を検査

女性の場合は、淋菌との同時検査および咽頭検査の施行をお勧めします。

治療

本人のクラミジア感染が確定している場合やパートナーのクラミジア感染が確定している場合は、1日で内服が終わり、内服忘れがないため治療成功率が高い、アジスロマイシン 1回1000mg,、1日1回、1日のみの内服を第一選択としています。(下痢の副作用の出現率が高いです)しかし、最近は下記のマイコプラズマ感染症の増加、マイコプラズマのアジスロマイシン耐性化(薬が効かない)が進んでおり、クラミジア感染の確定がされておらず、淋菌感染が否定的な尿道炎にはアジスロマイシンではなく、ドキシサイクリンやシタフロキサシンの1週間投与を第一選択にすることが多いのが現状です。

治癒確認

クラミジア感染症の場合は、100%の治癒率はありませんので、必ず2-3週後に再度クラミジア検査を行い治癒確認を行う必要があります。

 

3.マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症

概要

最近増加傾向の性感染症です。男子尿道炎や子宮頸管炎の原因として増加しており、淋菌もクラミジアも検出されない男子尿道炎患者さんの約1/4はマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症と考えられます。マイコプラズマ・ジェニタリウムは男子尿道炎の原因菌として病原性(病気の原因となること)が立証されました。女性に関してもクラミジアと同様、子宮頚管炎の原因となり不妊症の原因となります。しかし、我が国での問題点は、マイコプラズマ・ジェニタリウムの検出検査がまだ保険適用となっていないことでした。以前はクラミジアの治療薬であるアジスロマイシンがマイコプラズマ・ジェニタリウムにも効果があったため、クラミジアの治療をすれば自然にマイコプラズマ・ジェニタリウムも治療されることになり、あえて検査をする必要もありませんでした。しかし、最近マイコプラズマ・ジェニタリウムのアジスロマイシンへの耐性化(薬が効かなくなる)が急増しており、アジスロマイシンによる治療失敗例が増加し問題となっています。このような現状を反映し、とうとうマイコプラズマ・ジェニタリウムの検出検査が、本邦でも保険適用となりました!!!

今後は淋菌やクラミジアと同様、男子尿道炎患者さんにはマイコプラズマ・ジェニタリウム検査が必須となってくると思われます。ただ、現在は淋菌、クラミジア、マイコプラズマ・ジェニタリウムを初診時に同時に検査することは保険上規制されています。クラミジアとの同時検査は認められていますので、淋菌感染が否定的な患者さんや、淋菌、クラミジアの治療をしても症状が改善されない患者さんには保険適用で検査ができるようになりました。

症状

マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症による症状はクラミジアとほぼ変わりません。症状だけではクラミジア感染症との鑑別は困難です。

検査

男性では尿、女性では子宮頚管擦過検体にて行います。マイコプラズマ・ジェニタリウムは咽頭感染は起こさないと考えられており、咽頭検査は行いません。

治療

マイコプラズマ・ジェニタリウムの薬剤耐性化(薬が効かない、なかなか治らない)が現在非常に問題となっています。

まずはシタフロキサシン 1回100mg 1日2回 7-14日間の投与を行います。ただ、現在シタフロキサシン単剤での治療効果は約80%と言われており年々低下しています。

シタフロキサシンにて治癒できない場合は、ドキシサイクリンもしくはミノサイクリンとシタフロキサシンの併用治療を行います。しかし、この治療でも約90%程度の治癒率であり、なかなか治らない難治性マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症が増加しています。このような難治性マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症に対する治療は残念ながら確立されておりません。保険診療内で使用可能な薬剤での治療は困難なのが現状です。自費治療となりますが、スペクチノマイシン筋肉注射7日投与+ドキシサイクリンの併用が治療の選択肢としてあげられます。

マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症は難治性ですので、症状が改善しても必ず治療から2-3週後に再度マイコプラズマ・ジェニタリウムの検査を行い治癒確認を行いましょう!!

 

4.その他の男子尿道炎

女性と違い、男性の尿道炎は上記の淋菌、クラミジア、マイコプラズマ・ジェニタリウム以外にも原因となる菌があります。以下に代表的な原因となる微生物を列記します。

男性の尿道炎は淋菌、クラミジア、マイコプラズマだけが原因ではありません!! 検査できない下記の微生物が原因となることも多く、症状がある場合は検査だけするのではなく、適切な抗菌薬の治療を行うことが非常に重要ですので、必ず泌尿器科専門医を受診しましょう!!

①ウレアプラズマ

ウレアプラズマ・ウレアリティカムは尿道炎の原因となると考えられています。しかし、女性に対する病原性は立証されておらず、検査の保険適用はありません。(当院での自費検査の費用は7000円です)ウレアプラズマはマイコプラズマと違い、薬剤耐性化はあまり進んでおらず、通常の尿道炎の治療で治癒しますのであえて検査をする必要はありません。無症状の性病チェックやブライダルチェックで陽性が出た場合は、ドキシサイクリンによる治療を行います。

②インフルエンザ菌

女性の咽頭に常在するインフルエンザ菌が尿道炎の原因となります。オーラルセックスにより感染するため、性風俗の利用による感染が多いです。インフルエンザ菌も通常の尿道炎の治療で治癒しますのであえて検査をする必要はありませんし、女性の性器に感染させてしまうこともないため、無症状の性病チェックやブライダルチェックで検査する必要もありません。

③アデノウイルス

いわゆるはやり目の原因ウイルスです。尿道炎とともに結膜炎を併発している場合が多いです。排尿時の痛みなどの尿道炎症状は強いことが多いですが、クラミジアやマイコプラズマとの鑑別は困難です。2週間程度で自然治癒します。治療薬はありませんので検査もする必要はありません。

 

 

文責 みうら泌尿器科クリニック院長 

三浦徹也(日本泌尿器科学会専門医、性感染症学会認定医)

 

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