過活動膀胱とは?
○1日に何回も尿に行く
○夜に何回も尿に起きる
○急に尿がしたくなりトイレに駆け込む
○急に尿がしたくなり我慢できずに漏れる |
上記のような症状は過活動膀胱の症状です。日本での40歳以上の男女での過活動膀胱を有している人の割合は、男性24.8% 女性 15.7%といわれ、加齢とともにその比率は増加します。また、尿もれを伴う過活動膀胱は女性に多く、過活動膀胱を有する女性の64%は尿もれを伴っているといわれています。ただ、過活動膀胱を有する患者さんの中での医療機関の受診率は男性34.5%、女性15.7%にとどまっているのが現状です。過活動膀胱は適切な治療をすれば改善します。我慢せずに泌尿器科を受診しましょう!!
当院では過活動膀胱の患者さんが少しでも気軽に受診できるよう、男女かかわらず、プライバシーに配慮した診療を心がけます。初診の方はweb問診票を事前にホームページからwebで入力いただきますと、受付での問診票の記入のやりとりが不要になり、よりプライバシーに配慮した診療が可能ですので、ぜひご利用ください。また、女性の方は女性専用外来も設置しておりますのでそちらもご利用下さい。
過活動膀胱の定義
「過活動膀胱」という疾患名は製薬会社によるTVCMなどでの啓発活動で一般的によく知られるようになってきました。しかし、過活動膀胱の定義は結構あいまいです。
名前が付いている疾患は普通、どこかの臓器に形態的な異常がある疾患がほとんどです。例えば前立腺肥大症は「前立腺が肥大している」、膀胱炎は「膀胱に炎症がある」というように、です。しかし、過活動膀胱は、膀胱に何らかの形態的異常があることが必須ではなく、「尿意切迫感(突然おこる我慢できないような強い尿意)」という自覚症状さえあれば過活動膀胱と定義されます。つまり、症状だけで診断できる疾患ということです。いわゆる「風邪(感冒)」と同じです。
過活動膀胱の重症度判定
過活動膀胱は患者さんの自覚症状だけで診断する疾患のため、重症度の判定には、症状の強さの客観的な指標が必要になります。よく使われる指標に過活動膀胱症状質問票(OABSS)というものがあり、これを重症度の判定に用いることが多いです。OABSS で5点以下が軽症、6-11点が中等症、12点以上が重症となります。
しかし、この重症度の基準は、あくまで参考であり、患者さんの日常生活にどれくらい支障をきたしているかは個々の患者さんによって感じ方が違います。OABSS 7点でも尿のことで日常生活に支障をかなりきたしているようですと当然重症と考えるべきです。また、日常生活への支障の大きさで考えると、やはり質問4の「尿もれ」の有無が大きな問題になります。尿もれがある場合は無い場合と比べて日常生活への影響は大きくなるので、尿もれがある場合は重症と考えるべきでしょう。
過活動膀胱に伴う尿もれ~切迫性尿失禁
過活動膀胱による尿もれを切迫性尿失禁といいます。これは、「急に尿がしたくなりトイレに行くまで我慢できずに漏れてしまう」という尿失禁です。切迫性尿失禁があると、常にトイレがどこにあるかが気になり、長時間の会議やバス旅行、映画館に行くことができなくなったりと日常生活に支障をきたします。つまり重症の過活動膀胱ということになります。
しかし、切迫性尿失禁は治療をすれば、腹圧性尿失禁(お腹に力を入れると尿が勝手に漏れてしまうような尿もれ)に比べますと、治療がよく効きます。切迫性尿失禁の患者さんは我慢せず泌尿器科に受診することをお勧めします。
当院での過活動膀胱の治療方針
当院では頻尿、尿もれ治療に対して、様々な治療をご提供できる機器や設備があります。他院で治療してなかなか改善しないような患者さんもあきらめず一度ご相談ください。
過活動膀胱の治療の流れ
過活動膀胱の症状で受診されますと、尿検査、腹部超音波検査にて、腎臓や膀胱に何か異常がないか、膀胱に尿の残り(残尿がないか)、男性の場合は前立腺肥大症がないかを調べます。前立腺肥大症がある男性の方は前立腺肥大症の治療に準じて治療を行っていきますので、詳しくは前立腺肥大症のページをご覧ください。(→前立腺肥大症についてはこちら)
当院では行動療法、薬物治療、磁気刺激療法を組み合わせて治療をしていきます。これらの治療を行っても効果のない過活動膀胱の患者さんにはボツリヌス毒素(ボトックス)膀胱壁内注入療法を行います。
①行動療法
a. 膀胱訓練
古典的ですが、有効な方法です。尿をなるべく我慢していただき、膀胱の広がりを促します。ただ、過活動膀胱の患者さんは我慢すると漏れてしまうと強く感じる患者さんも多く、膀胱訓練単独での治療は難しいことがほとんどであり、薬物治療と併用で行います。
b. 骨盤底筋体操
腹圧性尿失禁に対して非常に有効な治療法ですが、過活動膀胱にも有効です。体操の詳細は女性の尿もれ、腹圧性尿失禁のページをご覧ください。 (→骨盤底筋体操の詳細はこちら)ただ、女性の尿もれの項でも触れましたが、この体操を正しく継続することは難しいことがほとんどです。当院ではヨガのインストラクターによる骨盤底筋ヨガ・ピラティス講座を開設し、骨盤底筋トレーニングを正しく継続できるよう指導しておりますので、ご希望がありましたら是非受講してください。
②薬物治療
過活動膀胱に対する薬物治療は効果がかなり期待できます。下記の2種類の薬剤があります。
a. β3受容体作動薬 薬剤名:ベタニス®(ミラベクロン)、ベオーバ®(ビベクロン)
膀胱の筋肉にある交感神経のβ3受容体が刺激を受けると筋肉が緩み膀胱が広がります。それにより、尿をより蓄えることができ、過活性膀胱による尿意切迫、頻尿、切迫性尿失禁などの症状を改善することができます。下記の抗コリン薬と比べて排尿困難などの副作用が少ないため、過活動膀胱治療薬としては第一選択として使用します。
b. 抗コリン薬 薬剤名:ベシケア®(ソリフェナシン)、トビエース®(フェソテロジン)etc.
膀胱の収縮には神経伝達物質のアセチルコリンが関与しており、アセチルコリンがムスカリン受容体というものに結合すると膀胱が収縮します。抗コリン薬はムスカリン受容体へのアセチルコリンの結合を阻害し、膀胱の過剰な収縮を抑え、過活動膀胱による尿意切迫感や頻尿などを改善します。上記のβ3受容体作動薬より膀胱の収縮の抑制効果が強く排尿困難などの副作用が出ることがあるため、β3受容体作動薬で効果がない場合や重度の尿もれを伴う場合に使用します。
③尿失禁治療用磁気刺激装置
過活動膀胱に対して非常に有効な治療法です。特に薬剤と併用することで効果がさらに期待できます。電気刺激療法(干渉低周波治療:ウロマスター®)よりも効果は期待でき、2019年発刊の女性下部尿路症状診療ガイドライン第2版(日本泌尿器科学会/日本排尿機能学会編)にて磁気刺激療法が尿失禁治療に対して推奨グレードA(行うよう強く勧められる)に認定されました。
当院では、この磁気刺激装置を神戸市内で初導入し過活動膀胱の治療に使用しています。詳しくは尿失禁治療用磁気刺激装置のページをご覧ください。
④ボツリヌス毒素(ボトックス)膀胱壁内注入療法
上記の治療にても症状が改善しない過活動膀胱患者さんには、ボトックス膀胱壁内注入療法を推奨いたします。この治療は、2020年に新しく保険適応となった治療法です。難治性過活動膀胱患者さんには朗報です。当院では日帰り治療で行っています。詳しくはボツリヌス毒素(ボトックス)膀胱壁内注入療法のページをご覧ください。
文責 みうら泌尿器科クリニック院長 三浦徹也(日本泌尿器科学会専門医)