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夜間頻尿について

「夜中に何度もトイレに起きて困ります。」

この悩みは泌尿器科への受診理由として一番多いと言われています。ここではその尿の悩みとして最も多い夜間頻尿について解説します。

夜間頻尿とは

医学的には、「夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという愁訴」と定義されます。夜間に1回起きることは健常者でもありうることですので、臨床上問題となるのは、夜間2回以上起きることと考えます。夜間2回以上排尿に起きると、転倒や骨折のリスクが上がる言われています。特に高齢者では注意が必要です。

夜間頻尿の発生頻度

本邦の夜間頻尿発生頻度を表に示します。

表:本邦の夜間排尿2回以上の年齢別の頻度 (Homma Y 2006 Urology 68(3) 560-4)

  40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 80歳以上
男性 10.3% 20.6% 39.7% 62.0% 83.9%
女性 8.5% 15.4% 28.6% 48.3% 71.2%

男性の方が女性より頻度が高く、70歳以上になると半数以上、80歳以上ではほとんどの人が夜間2回以上排尿のために起きていることになります。夜間の排尿回数が多くなれば、生活の質が低下することはもちろんですが、高齢者が夜間に一人でトイレに歩いていくという行動自体が、転倒や階段から落下したりして骨折のリスクとなるため、できる限り夜間排尿回数を少なくするよう治療することが必要です。

夜間頻尿の原因

原因は大きく分けて次の3つです。

①夜間多尿(夜間に尿の量自体が増えてしまう状態)

②前立腺肥大症や過活動膀胱などの泌尿器科疾患

③睡眠障害・不眠

夜間頻尿の原因は、前立腺肥大症や過活動膀胱などの泌尿器科疾患が原因と思われていることが多いと思います。当然、泌尿器科疾患による夜間頻尿の患者さんもたくさんおられますが、むしろ最も多い原因は夜間多尿といわれています。夜間多尿とは、夜間(寝てから起きるまで)の尿量が1日全体の尿量の33%を超える(若年者では20%)場合をさします。夜間に尿量自体が増えれば排尿の回数が増えるのは当然で、膀胱機能などに異常がなくても夜間頻尿となってしまいます。

また、睡眠障害による夜間頻尿もあり、これは尿がしたくて目が覚めるのではなく、睡眠障害のために頻回に目が覚めてしまい、目覚めると尿にいきたい感じがしてトイレに行くという状態です。よく眠れた日には排尿のために起きることがないという患者さんは、睡眠障害による夜間頻尿であることがほとんどです。

実際の夜間頻尿の患者さんは、上記3つの原因を2つ以上あわせ持っていることが多いです。特に夜間多尿の患者さんは、薬物治療では改善しないケースも多く、飲水指導などの生活指導を行うことが非常に重要になります。

次に夜間頻尿の原因で最も多い夜間多尿について詳しく説明します。

夜間多尿とは

定義

夜間(寝てから起きるまで)の尿量が1日全体の尿量の33%を超える(若年者では20%)場合

原因

①水分過剰摂取 

脳梗塞や心筋梗塞予防のため、血をサラサラにするため、水分をたくさん摂取しなさい」とかかりつけ医や家族から言われ、夕食後や寝る前に水分を過剰に摂取している患者さんをよく見かけます。これは夜間多尿の大きな原因となります。ちなみに2リットル以上の飲水を1週間以上継続して血液粘調度を調べた報告がありますが、血液粘調度に変化はないとの結果でした。すなわち多量に飲水を摂取しても血液はサラサラにならないということです。適切な飲水指導については下記に詳しく説明します。

②高血圧、心不全などの心血管系の疾患

健常者は夜間に血圧が低下しますが、高血圧の患者さんは夜間の血圧低下がなく、夜間尿量が増加するといわれています。また心不全や加齢などで心機能が低下すると、立位が多い日中は下半身に水分が貯留し、下肢のむくみがおきます。夜間になり寝転ぶと下肢にたまった血液が一気に心臓にもどり、腎臓への血流も増え夜間の尿量が増えるといわれています。

逆にいえば、夜間頻尿から高血圧や心不全がみつかるケースもあります。

③ホルモン(抗利尿ホルモン)バランスの低下

若いころを思い出してみてください。若いころは、夜間に排尿に起きることなく熟睡し、朝起床時に排尿するとすごく濃い尿がでていたと思います。これは夜間に抗利尿ホルモンというホルモンが脳から分泌され、尿を濃くして尿量を減らすように働きかけているからなのです。しかし、加齢とともにこのホルモンが昼間に分泌されるようになってしまうことがあり、そうなると昼間の尿量は少なくなりますが、夜間はホルモンが分泌されないため尿量が増えることになります。

④アルコール、カフェイン、薬剤による多尿

アルコールやカフェインは利尿作用があり、これらを夜間に摂取しすぎると夜間多尿になります。また、薬剤の中には夜間多尿をきたす可能性のある薬剤があり、代表的な薬剤に降圧剤であるカルシウム拮抗薬が挙げられます。

夜間多尿の治療

①飲水指導

上述しましたように「脳梗塞や心筋梗塞予防のため、血をサラサラにするため、水分をたくさん摂取しなさい」というのは、医学的には証明されていませんので、過剰な水分摂取は控えるべきです。適切な飲水指導が大切です。汗をかく運動をしていない場合の適切な一日の飲水量は、食事に含まれる水分量は除いて体重の2-2.5%と言われており、体重50kgの人では、1000ml程度が適切です。一日の尿量は体重あたり20-25mlで50kgの人で1000-1300ml程度が一日尿量として適切で、2000mlも尿がでていれば明らかに多尿です。

②塩分制限

塩分を過剰に摂取すると多尿になります。夜間多尿の患者さんは、一日6g未満の塩分制限を目標とします。

③運動療法

夕方あるいは夜間の運動(散歩や筋トレ)は、昼間に貯留した水分を筋肉ポンプ作用で血管内に戻し、汗として体外に排出する作用があるため、夜間多尿に有効といわれています。また、ストレス解消や適度な疲労で睡眠障害にも効果があります。

④薬物療法

a. デスモプレシン

この薬剤は男性の夜間多尿患者さんに保険適応となっています。(女性には使用できません)この薬剤は、上述の抗利尿ホルモンの合成アナログ製剤で、眠前に内服することにより抗利尿ホルモンと同様に尿を濃くする作用があり、夜間の尿量を減少させることができる非常に有効な製剤です。残念ながら本邦では女性に使用することはできません。注意点は、心不全の患者さんには使用できないことです。この薬剤を内服するうえでは採血検査を行い、内服可能かどうかをチェックすることが必要です。

b. 利尿剤

女性ではデスモプレシンが使用できないため、利尿剤を昼から内服してもらい、夜間にでる尿を寝るまでに強制的に出させてしまい、夜間の尿量を減少させるのが狙いです。

夜間頻尿の治療

夜間頻尿の治療で最も大切なことは、夜間多尿があるかないかをチェックすることです。これをチェックするには排尿日誌をつけていただくことになります。夜間頻尿の治療は、まず排尿日誌をつけることから始まるといっても過言ではありません。

排尿日誌をつけることにより、夜間排尿指数を計算し33%(若年者では20%)を超えるようであれば、夜間多尿と診断します。

①夜間多尿がない夜間頻尿

夜間多尿がない夜間頻尿は、膀胱機能障害を有する泌尿器科疾患に起因します。一番の原因は過活動膀胱です。昼間の頻尿や尿漏れを合併していることも多いです。男性の場合は前立腺肥大症を合併していることが多く、男性の夜間頻尿では前立腺肥大症の有無を必ず初診時に調べます。

このタイプの夜間頻尿は、過活動膀胱や前立腺肥大症に対する薬物療法で改善することが期待できます。それぞれの治療の詳細は過活動膀胱の項、前立腺肥大症の項をご参照ください。

過活動膀胱の治療についてはこちら

前立腺肥大症の治療についてはこちら

②夜間多尿がある夜間頻尿

夜間多尿がある夜間頻尿は、過活動膀胱や前立腺肥大症の治療薬のみでは改善しないケースも多くあります。過活動膀胱や前立腺肥大症の治療薬に加え、上述した夜間多尿の治療が必要になります。飲水制限などの生活指導や男性ではデスモプレシンの内服が有効になります。

③睡眠障害による夜間頻尿

ぐっすり眠れた日は夜間トイレに起きない、という場合の夜間頻尿はこのタイプになります。尿がしたくて目が覚めるのではなく、睡眠障害のために頻回に目が覚めてしまい、目覚めると尿にいきたい感じがしてトイレに行くという状態です。このタイプの治療は睡眠障害に対する薬物治療を行います。睡眠薬は最近新しい治療薬が開発され、睡眠薬服用による特に高齢者の転倒に対して安全性の高い薬剤も増えてきました。睡眠障害による夜間頻尿に対する睡眠薬として、当院ではルネスタ®、ベルソムラ®などを推奨しています。

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