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エッセイ「宇宙人にならないために~今こそ「古い医者」へ!!」

[2021.09.06]

皆様、こんにちは。

みうら泌尿器科クリニック院長の三浦徹也です。

この度は当院ホームページをご覧いただきありがとうございます。

このコラムでは、皆様に有益となるような病気の情報を中心に、あまり知られていない医療の裏側など、皆様の興味が湧くような内容を書いていこうと思います。

今回は、新型コロナウイルス感染症から思う今後の求められる医師像について私の考えをエッセイにしました。

新型コロナウイルス感染症がいまだ猛威を振るっており、医療の現場も厳しい状況が持続しています。コロナウイルス感染症により医療も大きく変わろうとしています。特に医療のIT化が急速に進み、コロナ終焉後もこの流れは持続するでしょう。今後到来するであろうIT時代に求められる医師像とは何か、ということを題材に私の考えをエッセイにまとめさせていただきました。

 

「宇宙人にならないために~今こそ「古い医者」へ!!」

2020年以降現在も新型コロナウイルス感染症が全世界に猛威を振るっています。この感染症パンデミックを契機に人々の生活様式も大きく変化しようとしています。なるべく人との接触を避けるよう心がけ、仕事もテレワーク主体となり会議もwebで行うようになってきています。情報技術(IT)の進歩した現在、このような新しい社会への変換は容易に進み、パンデミック終焉後も元の社会に戻ることなく継続されるでしょう。そうなれば企業は人よりもITに投資するようになり、要らない人間は淘汰され、人と接する機会が減少することによりバーチャルな世界への依存が高まっていくでしょう。いわゆる人間の人間らしい人間的な生活が消滅し、視覚と聴覚でしかコミニケーションができないロボットのような人間が増えるのではないかと危機感を感じてしまいます。こうなれば、ヒトの進化した未来の姿は目と耳が異様に発達したいわゆる”宇宙人”のような姿になってしまうのではないでしょうか。

さて、医療の分野でもこの流れは例外ではなく、Webを用いた遠隔診療に注目が集まっています。さらに今後は人工知能(AI)を取り込むことによってより効率的な医療の提供ができるようになるでしょう。新型コロナウイルスのパンデミックにより医療の分野でもITやAIの普及は加速度的に進むことが予想されます。AIはすでに人間の頭脳を超えている領域があります。将棋の世界ではプロ棋士でもAIに勝てない時代が到来しており、むしろAIから学ぶ時代になっていると聞きます。医療の分野でも画像診断領域においては医師よりもAIの診断能力の方が優っていたとする研究があります。今後は外科手術領域でも、現在のロボット”支援”手術ではなく本当の意味でのロボット手術が開発され、ロボットが外科医の技術を超える日が近い将来やってくるでしょう。このような医療の進歩により医療技術の面では田舎でも都会でも皆が平等に医療を受けられる時代となり、遠隔診療や遠隔手術により医療の効率化が進んでいくと考えられます。このように今後、「病気を治す医療」では主役が医者からAIへと移り変わる時代がくるに違いありません。しかし医療とは病気を治すことだけが役割ではありません。むしろ医療の原点は「人を診る」ことではないでしょうか。医療の進歩により治る病気が増えました。しかし、治らない病気が大半を占めた過去の時代から医療は存在しています。その時代の医療は患者を「人」として診て、患者と真剣に向き合い信頼関係を構築し、病気に対する不安や恐怖を取り除くことが大きな役割だったのではないでしょか。医療技術の進歩により「人を診る」から「病気を診る」へと変化してしまった医療の流れを、今こそ「病気を診る」から「人を診る」医療へ戻すことが必要ではないでしょうか。Web時代の弊害で視覚と聴覚だけでしか診療できないような宇宙人のような医者や病気しか診ない、手術しかしないようなロボットのような医者は今後淘汰され、患者を人として診る医者、いわゆる「古い医者」が求められる時代、すなわち医療の原点回帰が起こることを確信しています。

平成15年に医師になった私はこのいわゆる「古い医者」との出会いはほぼありませんでしたが、幸運なことに唯一、一人出会うことができました。それがH先生という先生で、私より20年以上先輩にあたる先生です。私が駆け出しのころに数年間H先生の下で働きました。H先生は自分の経験や感覚から医療を行う先生で、回診のときに患者さんをちょっと診ただけで「この患者さん今日悪くなるからちゃんと診とけよ。」と言われたら、本当にその日に状態が悪化したり、そんな預言者的なエピソードが1回だけでなく何回も起こりました。この能力はどこからくるのか不思議でしたので、一度聞いてみました。「先生、いつもなぜ少し診ただけで状態がわかるんですか?」と。そうするとH先生から忘れられない一言が返ってきました。「患者の臭いを嗅いだらすぐ分かるやろ。患者を診るときには、まず臭いを嗅げ!!」衝撃的でした。学術的なことを教えてくれる先輩はたくさんいましたが、「臭いを嗅げ」と言われたのは初めてでした、、笑。それ以降、状態の悪そうな患者さんを診るときには必ず臭いを嗅ぐようにしています。そうすると確かに臭いで分かる情報はかなり沢山あることが分かりました。例えば、術後の腸閉塞を発症しそうな患者さんは触診したりレントゲンを診る前に臭いで先に分かるようになりましたし、尿路感染症の患者さんの尿の臭いを嗅げば原因菌が腸内細菌かどうかも分かるようになりました。嗅覚を一つの例としてあげましたが、このように「古い医者」は視覚や聴覚だけでなく、五感をすべて使い診療し患者の少しの変化を瞬時にとらえる能力を持っていると思います。この五感を使った医療はAIにはできない能力の一つでしょう。

そしてもう一つ、正確性を追求するAIにはできないであろう「古い医者」が得意とする能力があります。それは「嘘をつくこと」です。癌の治療において昔は告知せずに治療することが当然でした。つまり嘘をついて治療していたわけです。しかし、現在は告知が当たり前になっています。それは、医療の進歩により治る癌が増えたことも一因でしょうが、医療訴訟が増加したことも大きな一因でしょう。現在でも治らない進行癌は存在します。そのような治る可能性が低い進行癌を治療する際に、時に「嘘」は必要です。何でもかんでもガイドラインや治療薬のデータを並べてそれを正確に患者に伝え、患者に治療薬を決めてもらうような無責任な医者を最近よく目にします。それは治療の結果の責任を患者に押し付けているだけのただの責任逃れ、訴訟逃れにしか見えません。そのような医療こそAIで代替可能です。医療の進歩により特に癌領域では治療薬が飛躍的に増え、もはやガイドラインに沿った画一的な治療は不可能な時代になっています。現在の進行癌の治療は患者個々に合わせたオーダーメイド治療が必要であると痛感しています。だからこそ、医者は患者と向きあい、病気だけでなくその人の人間的背景(性格、家族構成、仕事、経済面など)を理解し、その人の生きがいを把握した上で最適な治療を自信を持って提供する必要があります。医者は自分を信じてくれている患者に自分が信じた治療を提供することが責務であり、少しでも前向きに患者をその治療に向えるようにするために、「嘘」が必要と判断すれば嘘をつけばよいし、我々はそれができます。しかし、正確性を求めるAIは正確な情報を患者に与えすぎるあまり、時には患者の希望を喪失させ治療への意欲低下を引き起こしてしまうかもしれません。最終的な結果は同じかもしれませんが、最期に「先生に診てもらって良かった」と言ってもらえることが我々の喜びであり、そのような信頼関係を構築し、癌との戦いをより希望のあるものにしていくことが医者の務めであり、これはAIにはできない医療だと思います。

このような「古い医者」が得意とする五感を使った診療や巧みに嘘を操ることは、特殊な能力というわけではなく、普通に人間的な生活を送り、親子関係や師弟関係、男女の恋愛関係を色々経験していけば自然に身についてくる人間本来の能力です。ただ、医療を実践するときに人を診ずに病気を診てしまうことによりその能力を発揮できなくなるだけです。医療のIT化やAI化により今後医者も淘汰される時代が必ず来ます。視覚と聴覚しか使えない宇宙人のような医者や病気しか診ず手術しかしないロボット医者は真っ先に淘汰されるでしょう。新型コロナウイルスを契機に社会のIT化が進んでいく流れである今だからこそ、医療は「病気を診る」から「人を診る」へと原点回帰することが求められているのではないでしょうか。

みうら泌尿器科クリニック

三浦徹也

 

 

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